「パパが婚約しているって?どういうこと?」

不思議な話に小5の私は自分の耳を疑った。

「だって ”I got engaged to him”(私は彼と婚約している)って言うんだもん」

「ウソっ!で、ママはなんて返事したの?」

「だから私は妻で、子供も3人いるって言ったら電話が切れたわ」

頭がクラクラして笑いが出てきた。
人間あまりに驚くと、笑ってしまうのだ。

なんて父親だ。
好きだったのに。
大好きだったのに…….。

笑いながら怒りがムクムクと込み上げた。

父の顔が直視できなくなった。

奇妙な電話は私が感じた違和感の通り、おかしかったのだ。

父も私の様子が変わったせいか、まったく寄り付かない。

その数日後、父と母はどこかのパーティーへと出かけて行った。
子供たちはSさんと留守番をすることになった。

さすがに父が出張へ行っていないときに、
Sさんは1人で外へ飲みには行かない。

父から頼まれた任務を、遂行するフリはしていた。
私たちと一緒に食事を食べながら、
家にあるビールをここぞとばかりに飲んでいた。
いつもより早いペースで、次々と瓶が10本以上空いた。

父の婚約者騒動でイライラしていたせいで、
Sさんの厚かましい様子はいつもより余計にムカついた。

「ねぇ、そんなに家のビールを飲まないでよ。
次にどこで売りに出されるかわからないんだから!」
と言った。

Sさんは相変わらず
「セリちゃんのお父さんからは、
いくらでも飲んでいいから、
子供たちと留守番してくれって言われたんだけどな〜」
とあっかんべーをするように言う。

だけど酔っていて目は座っているし、
ロレツも満足にまわらない。

「本当にそう言ったの?
Sさん酔っ払っているでしょう?
留守番になんてならないじゃん!」

私がSさんへ突っかかっていくのを聞いて
ハラハラした兄は
「セリやめろ!Sさんはパパから頼まれて
いてくれているんだぞ!」
と言った。

どうしてこの家の男どもは、他人にいい顔ばかりするのだ。
この人は家を酒場と勘違いしているだけのに!

そう思っていると、Sさんが野卑な目をして私を睨んだ。
そうして酒臭い顔を私に近づけ

「そんなこと言っていいのかなぁ?
オレ、外に飲みに行っちゃうよ」
と脅しにかかった。

「いいよ。だってどうせ家のビールも水も、
全部飲んで寝てしまうのでしょう?
ご飯だっておかずだって、
私たちの分まで食べてしまうじゃない!
Sさんが外に行ったら、
お酒を飲んでいないデイビッド(使用人)に来てもらうよ。
デイビッドの方がSさんといるより、
よっぽど頼りになるもん!」

使用人たちは家の敷地内の別棟に、寝泊りしていた。

Sさんが我が家にくるまでは、デイビッドが留守番にきてくれていた。

「チッ!」と舌打ちをして、
Sさんは短パンを長ズボンに履き替え、
小銭をチャラチャラと鳴らしながらポケットに入れた。

出て行くという素振りを、アピールしていた。

「Sさんお願い、行かないで!
セリ、Sさんに謝れ!強盗が入ってきたらどうするんだ!」

兄が真っ赤な顔をしてSさんに頼んでいる。

「デビッドにきてもらうからいいって言っているでしょ!
こんなに酔っていて、強盗から守ってくれるわけないじゃん!」

兄が目に涙を浮かべ始めると、
Sさんはまた野卑な笑みを浮かべた。

「お兄ちゃんがセリちゃんたちのために
こんなに言っているのに、セリちゃんはわかっていないな。
今日はお兄ちゃんのためにここにいてあげるよ」

恩着せがましく、新たなビール瓶の栓を抜いた。

「始めから出て行く気なんてなかったくせに!嫌いだ!嫌いだ!
Sさんも、Sさんを連れてきた父も大嫌いだ!」

悔しくて、悔しくて、庭に出た。
飼っていた番犬の太郎、ゴロー、サクラたちは
家から私が出てきて遊んでもらえると
勘違いして走ってきた。

犬たちは昼間はチェーンに繋がれているけど、
夜になると放し飼いにされて
ガードマンと一緒に番をしている。

ゴローの首につかまり
うずくまって泣いていると、
ガードマンは犬が突然走って行ったので
泥棒かと思って追ってきた。

「そこにいるのはセリ?どうしたの?」
と懐中電灯を照らして声をかけてくる。

私はうつむいたまま答えない。
泣いているのを見られるのが恥ずかしいのに、
どうしても体が震えるのは止められない。

ガードマンは
「ポーレ(お気の毒に)」
と言って私の頭をなでた。
私が泣き止むまで数分のあいだ待ってくれた。

「家に戻りなさい。危ないよ」
と言い、家の玄関の前まで連れて行ってくれる。
Sさんはドアを開けに出てきた。

心配そうに佇むガードマンに
Sさんが
「大丈夫だから、ありがとう」
と言って私を家に入れると

「セリちゃんは気が強いなぁ!
外に出られてなにかあったら、
俺が困っちゃうよ」

困らせているのは、私なのか?

私もあなたが家にいると困っちゃうよ。

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