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「私の人生はなんて孤独で、退屈なのでしょう」60代の女性がつぶやいた。
30年以上、1人で行動をしたことがないという。

買い物も、旅行も、映画鑑賞も……どこへ行くにも3人の子供たちの誰かと一緒だった。

ご主人は出張が多く「子育ては母親の仕事」というこの年代には珍しくない、保守的な考え方。
家にいるときでも一切子供に関心を向けなかった。

内向的な性格で、人付き合いは苦手。
ママ友たちの仲間にも入れず寂しかったけれども、働きにも出る経済的な事情もなかった。
社会的な接触がほとんどないまま唯一、子育てには夢中だった。

子供たちは健康に育ち、5年以上前からそれぞれの就職先で結婚をして近所にはいない。
そうして今ではお孫さんたちもいて、金銭的にも余裕がある。

定年退職後のご主人はパチンコや将棋を打ちに行くので、朝食後は夕飯まで外出している。
残りの時間はテレビを観たり、本を読んで過ごすけれど楽しくはない。

食材の買い出しにはご主人が付いてくるので、それだけが現在の外出だ。
ご主人と話をしようとしても、自分の話すことはすべて「うるさい!」と言われて聞いてもらえない。

「自分に今本当に必要なのは、話ができる相手」だという。
60代はまだまだ若い。健康にも問題がないのに、なんというもったいないことだろう。

 

お金も健康もあるのに孤独で退屈

1人で行動することに慣れている人には想像できないことかもしれない。
けれどもずっと誰かと一緒に行動していると、いきなり1人では行動ができなくなる。
慣れてしまえばどうってことないことも、習慣になるまでは練習が必要だ。

1人での食事や1人旅が楽しめない年配層は、驚くほど多い。
そういった人たちは、家へ引きこもりがちだ。
一緒に楽しめる相手がいればいいのだけど、それでも相手の都合に合わせる必要がある。
行きたいときにどこへでも1人で行けて楽しめた方が、自由度はグッとあがる。

 

1人の行動を楽しむためのトレーニング

最初はお子さんの住む町を訪ねることからスタートして、移動中だけ1人で行動する練習をお勧めした。
受け入れ先があった方が動きやすいだろうし、楽しみでもあるだろうと思ったからだ。

すると最初の1回だけご主人が心配をして、空港まで付いてきてくれたそうだ。
なにも手伝わずに、見守っているだけ。
無事に手荷物保安検査場を通過するまで、見守っていた。
帰りは1人で帰ってきた。
「夫がきてくれただけで、精神的に楽だった。完全に1人ではスタートできなかったかも?」と言う。

お子さんを訪ね歩く旅をする傍らで、日中も1日置きに1人でランチを食べに出るようにした。
「ぎこちなかったですよ。最初は人目を気にして味もしなかったです」と言いながらも続けた。

子供たちと一緒にお絵描きをするのが好きだったので、ランチを食べ終わると、その場で食べたもののスケッチを描いてから帰ってきた。
スケッチをするとなると、食べているときに料理を観察しているので人目を気にしなくなっていた。

スケッチを描いていたある日、店員さんが「お上手ですね。美味しそう」と声をかけてくれた。
家に帰ってからそのスケッチに色づけをして、お店へ再訪すると額縁に入れて壁に飾ってくれたそうだ。

そうして自分から話しかけられるようになり、店員さんとプライベートでも仲良くなった。
年齢は子供たちとあまり変わらないそうだけど、会話が弾むらしい。
店員さんの悩みにも、母親のように寄り添うことができる。

子供を訪ね歩く旅の最後の地は、2番目の子供の住む海外だった。
最初の旅から2年が経過していた。
残りの子供たちの住む町へはもう3回ずつ行っていたが、2番目の子は帰国してくれなければ会えなかった。

この旅は本当に怖かったそうだ。
本人だけではなく、ご主人や子供たち全員が心配をしていた。
けれどもこれまで大丈夫だったことに背中を押されて、英語も話せないのに1人で出発をした。

直行便のない行き先で、途中のトランジットもできた。
空港に降り立ったとき、2番目のお子さんは涙ぐんで待っていたという。

それが大きな自信となり、到着地でも1人で公共の乗り物を乗り継ぎスケッチをして歩いたそうだ。
これでもう滞在先に誰もいなくても平気になって、誰にも頼らずにどこへでも行けるようになった。

人付き合いが苦手な方なので、知らない相手と一緒に過ごすツアーは絶対に避けたかったそうだ。

「今思い出しても、スタート時は子供の『初めてのおつかい』と同じレベルだったわー」と笑った。

 

トレーニング大成功後の現在の心境