外科医から聞いた話だけれども年に何人かの患者さんは、
縫わなければいけない怪我のときに、
「麻酔をしないで」と希望する人がいるそうだ。
麻酔が体に悪いという理由かららしい。
けれども臨床的にはそれはよくないらしく、
麻酔をせずに処置をしたのと、麻酔をするのでは、
傷のふさがる期間が後者の方が圧倒的に早いという。
脳が痛みを察知することでストレスが発生し、
自然治癒力が落ちてしまうそうだ。
ただしこれは急性の痛みの場合だけで、
長い期間麻酔や、痛み止めを使うこととは異なる。
心も同じことで苦痛に感じる時間が長いと、癒す時間も長くかかる。
もし親になんらかのストレスが生じて、
悲しんだり、悩んだりしている時間があったとしたならば、
それは仕方のないことなのだけど、子供にはできるだけ見せない方がいい。
隠そうとしても子供と親の心はシンクロしやすいので、
恐らく子供は気がついていない振りをしているだけで、
親の不安を察知してしまうだろう。
子育て中に、親にもいろんな非常事態がある。
そういった期間が訪れたときは、信頼できる親戚や友人に預けたり、
小学生くらいの年齢ならば、
数日間でもキャンプや合宿などへ送り出すことを勧める。
友人の小学生の子供たちが親の離婚のゴタゴタに巻き込まれた。
そのとき私はちょうど年に1度のスキーへ行こうとしていたときだったので、
ついでに子供たちを預かり、遊ばせようかと提案してみた。
最初母親は、
「いくら友人とはいえ、そんな迷惑をかけられない。
自分でなんとかしなきゃ…….」
と躊躇した。
私は自分の遊びに行くついでだし、
母親がいなくて泣く年齢じゃないから大丈夫だと言うと、
「自分たち(親)がこんな風になってしまってから、
子供たちをどこにも連れて行ってあげていないの。
子供たちも行きたいところがあっても、我慢しているのよね。
申し訳ないけど、お願いします」
と言って、私に託してくれた。
子供たちを迎えに行って、その変わりようにドキッとした。
3ヶ月前に会ったときはうるさいほどしゃべりまくり、おどけていたのに、
まったく表情がなく、目も虚ろになっていた。
数ヶ月後に母親が元気になってから、私がドキッとしたことを伝えたとき、
母親はその表情の変化にまったく気がついていなかった、危なかったと言った。
初日こそ無表情な子供たちだったが、
スキーを朝から晩まで一緒にして、ご飯をお腹いっぱい食べて、
夜は宿泊施設のゲーセンや卓球で、ヘトヘトになるまで遊んだ。
学校は親の承諾を得て休ませてもらった。
そんなときに行っても、勉強ができなくなっていたからだ。
子供たちの生命力はたくましくて、あっという間に元気なった。
ふざけたことしか言わない私に安心しきって付いて回り、
私も子供たちとの遊びに興じて楽しんだ。
そうして5日後。
元気になった子供たちを家で待つ母親の元へ戻すと、
母親が待ちわびていた。
母親は母親で子供たちが出発する前は、
メソメソしてはいけないと子供に罪悪感を覚えながらも、
自分ではどうすることもできずにいた。
私に子供を預けて思う存分泣いたり、ゆっくりテレビを観たり、
食事をし、お茶を飲む時間ができたと、少し元気になっていた。
またしょんぼりと暗かった子供たちが、
母親の子供に対する罪悪感に追い打ちをかけていたのだけど、
明るく帰ってきた子供たちを見て、母親の罪悪感を薄めることができた。
親が元気になると、子供も元気になるけれど、
子供から元気になることで、
親の元気を取り戻すこともあるのだとそのとき思った。
けれども暗い期間を長引かせてしまうと、こうはいかない。
なかなか治らない不安定感を抱くようになってしまったり、
精神疾患や、体調不良などを引き起こしてしまう可能性が高くなる。
ことが起こるのは、仕方のないこと。
そんなときは誰か甘えられる人を探して、子供たちを委ねる。
他人に迷惑をかけることや、
家庭の事情をさらすことを恥ずかしがって隠している場合ではない。
緊急事態なのだからと開き直り、
「大事な子供たちの将来のため」
と思って少しでも暗い雰囲気や不安定な環境から、引き離すことが賢明だ。
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