担任と相性が合わず、
不登校になってしまった小学生がいた。
担任は自分の身を守るために、何度も家庭訪問にはきた。
だけど肝心な、
子供が学校へ行きたくない理由に対応はしなかった。
内容は書けないけど他人の私が聞いても明らかに、
職権乱用としか思えないことを、この担任はしていた。
校長、教頭にまで掛け合ったが動いてくれない。
そこで親は子供に学校へ行かせなくていいと判断をし、
本人が行きたくなるまで待つことにした。
子供は友達に会いたがっていた。
けれどもやはりその担任がどうしても嫌いで、
友達と会うために学校へ行こうとしても、
吐いたり、熱を出したりした。
また気分転換に親が外出に連れ出そうとしても、
「誰かに見られたらズル休みをしているって、言われちゃう」
そう言って、外出もしない。
1ヶ月待っても、2ヶ月待っても、
外へも学校へも行けなかった。
困り果てた親御さんから相談を受けたのだ。
私がその子に会いに行くと、
最初は怖がって話をしなかった。
「今いちばんやりたいことはなに?」
と聞くと、急に目をキラキラと輝かせた。
「ネズミー・シーへ行きたい!乗ってみたいのがある!」
なにに乗りたいのかと聞いても
「ナイショー」
としか言わない。
親御さんは前に
ネズミー・シーへ行く提案をしたことがあったという。
でもそのとき本人は拒絶したそうだ。
私と2人で行くのはどうだろう?と聞くと、
「行くーーー!」
と二つ返事をしてくれた。
2人でネズミー・シーへ行き、
その子が乗りたかったアトラクションを聞くと
高い場所へ椅子に座ったままエレベーターで昇り、
一気に垂直落下させられるものだった。
親御さんは私にその子が絶叫系は苦手だと、
前情報をくれていてすっかり油断をしていた。
話が違うと思いながらも
お目当てのアトラクションに乗ることにした。
(私は乗り物酔いしやすい。笑)
1時間以上も列に並ばないとならない。
並び始めこそ、久々の外出にはしゃいでいた。
でも順番が近づくにつれだんだんと無口になっていた。
私がその子の手を取ると、氷のように冷たくなっている。
「やめようか?まだ間に合うよ。無理しないほうがいいよ」
と聞くと私の手をギュッと強く握りしめ、
「乗りたい……でも僕を守ってよ!ねぇ、守ってよ!」
と言った。
「わかった。ちゃんと守るからね」
と冷たくなった手をさすりながら言うと、
また無言になった。
痛いほど握られた冷たい手は、
アトラクションが終わるまでずっとそのままだった。
長く並んだアトラクションの本番は、
ほんの2分くらいだっただろうか?
終わった瞬間その子は「わー!!」と声を挙げ、
激しくわんわん泣いた。
建物の外へ出ても、
再び怖かったことを思い出して大きな声で泣いた。
「せ、せ、先生が出てきた」
しゃくりあげながら、やっと出た言葉だった。
この子がアトラクションで感じた恐怖は、
学校の先生から感じていた恐怖心だったのか。
ずっと先生が怖くて泣きたいのを、
家では我慢していたのだろう。
親の前では恥ずかしくて、大きな声で泣けなかったのだ。
だからあえて、私となら行くと言ったのだ。
そうして「(先生から)守ってほしい」
と無意識で懇願していた。
泣き止んだので、次はどれにしようか?
と聞くと「もう一回乗る!」と言い出された。
2回目の反応はぜんぜん違った。
乗り終わると顔面蒼白で、無言になった。
建物から出ても、じっとなにかを考えているようだった。
お腹が空いたのでレストランで食事をしていると、
「なんだか大丈夫な気がしてきた!」
とその子が唐突に言いだした。
「なにが?」と聞くと
「た・ん・に・ん」と答えた。
「なんかあれに乗れたらさ、なんでもできる気分になっちゃった」
今度は私が嬉しいのと驚いたのとで
「わー」っと泣きたくなった。
翌日からその子は登校するようになり、
10日ほど経ったけど、
毎日楽しそうにしていると親御さんから連絡をいただいた。
親御さんは学校が対応してくれない限り
転校させるしかないと思っていたけど、
大好きな友達と引き離すことは避けたいと思っていた。
と 電話越しに泣いていた。
担任も親からさんざん抗議を受けていたので、
登校しなくなった原因の行動をしないようになったそうだ。
私が与えたのは、ほんのきっかけにすぎない。
親御さんが私を信頼して、ゆだねてくれて、
その子も私を信頼してくれた。
親と子がどれだけ最善を尽くしても、
他者の介入なしで問題を解決するのには、
限界があることも多い。
いちばんよかったのは、
人目をはばからず大きな声で泣けたことだった。
絶叫系が嫌いな子の泣き叫びたいという思いが、
このアトラクションを選んでいた。
この子が親のいない場所でしか
大きな声で泣けなかったように、
家族には見せられないけど、
他人にだと見せられる本当の姿もあるのだ。
また自分の子供がよその大人につけられた傷は、
親より関係のない人間のほうが、
受け止めてあげられやすい。
親に解決ができないわけではないのだけど、
我が子を傷をつけた相手への感情の入り方が
深くなってしまう分、解決が長引く。
距離のある他人だと、もう少しドライに対応する。
なにより子供の回復は早い。
親にしかできないことは、
子供の回復を信じる強さと、
自分たち以外に委ねられる相手を探し、
子供と一緒に塞ぎ込んでしまわないということだ。
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