皆さんはどのような挨拶のしかたを
しているだろうか?
お辞儀?言葉だけ?
普通そんなものではないだろうか?
家を出るときだって
せいぜい家族に声かけをするだけ、
あるいは黙って出てくることもあるかもしれない。
パニック障害になって、
約1年半ほど
自宅に引きこもっていた時期がある。
その期間の外出は
本当に必要最低限だったので、
1年半も続くと外へ出る習慣が
すっかり途絶えていた。
毎日外へ出ることに慣れる、リハビリが必要だった。
習い事も考えたけど、
続かなければ元の黙阿弥だ。
仕事ならよほどのことがなければ休めない。
リハビリにはそれくらいの
強い動機づけが必要だった。
そうして塾講師に採用してもらえた。
小学1年生〜5年生が私の担当だった。
そのなかで手を離してくれない小2の男児がいた。
ドリルを5、6人の児童に解かせるとき、
「わからない!」
と一番最初に手を挙げる子だった。
説明をしているときに私の右手には採点用の赤ペンを持ち、
左手は机の上に置いていた。
するとその子は私の左手の上に自分の左手を置き、
ぎゅーっと握りながら説明を聞く。
説明をし終わり、
新たな問題を解かせているあいだも、
私の握った左手は離さず右手で解く。
「できたね、じゃあ続きを解いてみて」
と言って他の子の採点に回ろうとするのだけど、
その子の握力はさらに強くなり、
一向に離してくれない。
ふざけているのではなく、
大真面目な顔をして握り続けている。
仕方がないのでその子に手を握らせたまま、
他の子へ来てもらい、
空いてる右手で採点をしていた。
私に手を四六時中握ってもらえることが
わかったその子が、
次に始めたのは私の首に腕を回し、
自分と私のほっぺを合わせることだった。
ちょっとびっくりしたけれど、
これもきっと離してはくれないだろうと、
苦笑いをしながら応じた。
同じ机に座っていた他の子たちは、
その様子をゲラゲラと笑った。
だけどその子はいっさい動じない。
その子は塾にくるのも早かった。
始業開始の30分も前にくることが多かった。
個人情報保護のため、
塾講師でもその子がどんな家族構成で、
どこに住んでいるのかは塾長しか知らされていない。
私も異常にスキンシップを求められていることは、
気になってはいたけれど、
何もたずねてはいけなかった。
でもそこは小学2年生らしく、
自分から話し始める。
家庭には乳幼児がいるようで、
お母さんは小さな子供にかかりきりだったようだ。
それでは仕方がない、無理もない。
「お母さんがんばっているのね。すごいね!」
とは言っても
この子がスキンシップを求めることだって、
お母さんが大変なのとは関係がない。
その話を聞いてからその子が早く教室へくると、
「よくきたね」
かがみ込んで、ハグをするようにした。
赤ちゃんのような素直さで、
その子は強く抱きついてくる。
ゆっくりと背中をなでると、
こわばっていた背中が、
徐々に柔らかくなるのがわかる。
背中がフニャーとなるまで、
ほんの30秒から1分もかからない。
準備で忙しいときでも、
必ずこの時間を取るようにしていた。
何回か儀式のようにこれをすると、
だんだん授業中に手を握ったり、
ほっぺをくっつけてくる回数が減った。
授業にも集中するようになり、
誰よりも早くドリルを解くようになってきた。
実は頭のいい子だったのだ。
そのうちに塾へくる時間も少しずつ遅くなり、
他の子と同じような時間に、
くるようになってきた。
教室に入るなりかばんを投げ出し、
ハグをしにきていたのに、
そんなことは忘れたかのように
他の子と一緒に席に着き、
遊ぶようになった。
数えていたわけではないから、
何回したか正確には思い出せないけど、
週二回の授業でハグをしていた期間は
1ヶ月あったか、なかったか。
子供は回復が早い。
日本のお辞儀文化は美しいと思う。
私はお辞儀が上手ではないので、
きれいにお辞儀ができる人を見ると、
惚れ惚れすることが、ままある。
でも人前でスキンシップを取る習慣はあまりない。
照れる気持ちもよくわかる。
年配になるほどスキンシップが苦手な国民だ。
子供のころやるせないことがあったとき、
黙って頭をなでてくれたガードマンがいた。
あなたに飲ませるビールはない!http://nakanoseri.com/beer/
両親の大げんかを見て、
顔じゅう涙でぐしゃぐしゃなときに、
ただ背中をなで続けてくれた、Yさんの奥さんがいた。
最悪の夜 http://nakanoseri.com/saiaku/
これ以外にも
たくさんのスキンシップを
いろんな人にもらったことで、
どれほど助けられただろう。
恥ずかしながら、寂しがり屋の私は
今でもハグしてもらうことがある。
(さすがに女性限定だけど)
ホッコリと気持ちが緩んで心地いい。
大人だって人の温もりが恋しいときはある。
握手だってスキンシップだ。
ハグに抵抗があるのなら、
手を握ってあげるだけでいい。
登校前の子供に握手をして送り出す
というのはどうだろう?
これなら忙しい親御さんにも
できるのではないだろうか?
励ましの言葉も大切だけど、
黙って人の温もりを感じる幸せもある。
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