私が仲良くしたいと思った人は、私を嫌いになっていく
家族から自分の本心を理解してもらえずにきた西田さんは、
友人との関係性もギクシャクしていた。
2年ほど前のこと。
西田さんには大好きなバンドがいて、そのバンドのファンたちのSNSグループに所属していた。
同じ対象を好きな人たちと一緒にカラオケや、飲みに行くことは楽しいことだった。
けれどもある日突然グループの1人との間で、ショッキングなことが起こる。
「あんたがバンドに対して『なんだ今日のライブはデキが悪いなぁ』とかつぶやくでしょう?
グループの人たちは皆んなあんたのこと嫌いだって言っているよ」
と言われた。
西田さんは「そうか、皆んなに嫌われるほど私ってダメなんだ……」と思ってしまった。
もともと入れ替わりのあるグループだった。
誰かがやり玉に挙げられて、総スカンをくらい、排除されるということは
自分がされる前にも起きていた。
でも自分の前にやり玉に挙げられていた人は、
物事をなんでもネガティヴに受け取ったり、グループ内の人間の悪口を言うような人だった。
自分から見てもその人がやり玉に挙がってしまうのは、仕方のないことのように思えていた。
だから自分は嫌われないようにと、一生懸命頑張ってもいたし、気を遣ってもいた。
高校の頃からバンドが好きで、そこに集うのは女子が多かった。
女子同士の難しい部分をくぐり抜けてきた自負があったので、
「今さらヘマはしない」
と確信していたものを、ペキっと折られてしまったショックだった。
このことで「なんのために嫌われないよう、生きていたんだろう」と悩んだ。
そもそもバンド好きの人間はのめり込みやすいタイプが多く、視野が狭いと感じた。
その中にいると、心が荒んでしまうと感じたから距離を置くことにした。
けれどもその後出会ったバンド好き仲間以外の人たちとの交流も、
「そのうち似たような目にあってしまうのではないか?」
と疑心暗鬼が起きてしまい、安心した友達付き合いができずにいる。
つい2、3年前に起きたことだから、
まだ西田さんのなかでは生々しい事件として残ってはいる。
私たちと仲良くしたければ、マンセーしなさい!
思い返すと自分が付き合う人たちは「自分が大好き」という人たちばかりだった。
そう振り返り、わかりやすいエピソードを教えてくれた。
バンドのファンたちはコスプレイヤーが多い。
コスプレをした自分が大好きで、相手にも賞賛を求める。
笑ってしまったのだけど、賞賛することをネット用語で「マンセーする」と言うのだそうだ。
韓国語の「万歳(ばんざい)」で、北朝鮮の喜び組が金正日を讃えるシーンが原型らしい。
マンセーを求める人がコスプレイヤーなのは知っているし、
褒め上手の人は、マンセーの仕方が半端ではないそうだ。
「ホンモノみたい!」と大マンセーをするらしい。
けれども西田さんにそこまでのマンセーはできない。
「似合っているよ」くらいはサラッとは言えても、
「一緒に写真撮って!」などとあたかも熱狂的なファンのようには言えない。
でも相手にとって西田さんは「自分の思うようにマンセーしない」者ととらえて、
イラっとする。
「私たちのことが好きならマンセーしなさいよ」
というような態度を取られて、最初は大好きで友達になってもダメになってしまう。
以前と少し変わったのは「嫌われてもいいや」と思えるようになったことだ。
そう思えるようになってから、少し気が楽になった。
でもここ2、3年のあいだ「仲良くなりたい」と思う人とは、長続きせずにいる。
人と仲良くなるのが下手な気がして、向こうから誘ってくれるまで待ってしまう。
「私から好きになって近寄った人たちは、私のことを好きになってはくれないんだ」
と思うようになってしまった。
男性とも続かない
2、3年前に付き合って別れた男性は、西田さんいわく「どうしようもない男」だった。
平たく言えば遊ばれてしまったのだろうと思っている。
「一緒に遊びに行ったり、セックスもしたいけれど、彼女にはしたくない」
とんでもないことを言う「オレ様野郎」だった。
その時点で切ればよかったのだけど自分に自信がなかったことや、
30代に入り仕事に安定感が出てきたので婚活をしてみたり、恋がしたい時期でもあった。
「心が弱っている時期だから、変な人が寄ってきてしまったのでしょうね」
無茶なことを言っていても、グイグイきてくれる彼に惹かれて行ってしまった。
でも女癖も悪ければ西田さんの服装や、やることにダメ出しする。
「別れようと」切り出しても別れない。
クリスマス、正月、誕生日すべてのイベントを無視されて、
「大事にされていないな」と感じて再び別れを切り出し、
交際開始から半年ほどで別れて以来、男性とは付き合っていない。
「死にたくなってしまう」という感情の正体
中学からうつ傾向にあった西田さんは、過去にうつ病にまで発展したことが数回ある。
高校のときは、うつのせいで不登校に陥ってしまった経験もある。
西田さんにとって最大のストレスは人間関係がうまく行かなくなる時だ。
そんなときには「死んでしまいたい」と思ってしまう。
大好きな人と仲良くなろうとすると、傷つき、うつ感情がでる。
だから人に近寄るのが怖くなるという悪循環に陥っていた。
また母から吐かれた暴言を謝ってほしいのに、
理解をしてもらえず逆に「自分の言っていることは正しい」と言われ続けていることが、
許せずにいた。
そのときの親に対する怒りや悲しみは「見捨てられ不安」として、
さまざまな人間関係に影響している。
高校生の娘から「やらせろ!」と男性から言われて怖がっていることを打ち明けられれば、
「誰だ!そんなヤツ二度とうちの娘の前に現れないよう、私がぶん殴ってきてやる!」
くらいの勢いで、体を張って守って欲しいと思うのは自然なことだ。
そんな一大危機に、母から寄り添ってはもらえなかった。
すなわち母親から、いったん見捨てられてしまったことになる。
うつ病になってから我慢をしないようになった
ずっと家族や友人、彼氏に我慢を重ねてきてしまった。
しかしながら西田さんはうつ病になってから「我慢をしないように」医師からも指示を受け、
それを忠実に守っている。
職場では特に我慢をしていない。
言いたいことはハッキリと言って、仕事をこなしている。
ここでは人間関係に悩むことはない。
健康的な人間関係が、築けないのではないのだ。
ただ近くなってしまった間柄の人との心の距離の取り方が、あまりうまく行かない。
それは「見捨てられ不安」から起きている。
相手との関係性が近くなると「見捨てられたくない」という感情が無意識下で起こり、
無理して合わせて疲れてしまっているのだ。
だから心理的に距離のある最初のうちは仲良くなれる。
けれども近くなると相手の要求に従うよう求められてしまい、応えないとうまく行かなくなる。
職場で我慢をしないのと同じように、
家庭や友人、恋人と我慢をしないで付き合えないだろうか?と聞いてみた。
「あ、そうか。職場ではワガママ言っているから、(人間関係が)うまく行っている!」
と気がついた。
そうして自分の持っている能力も、高い評価を受けている。
しばらく意識的に「素」の自分を出す練習をする必要がある。
そうして「素」の自分が他者から受け入れらないような相手とは、無理して付き合わない。
自分に本当に合った人と出会えるまでそれを繰り返していくことで、
人間関係に対する苦手意識が成功体験に変わる。
次第に「見捨てられ不安」も徐々に成りを潜めて、
家族、周囲との人間関係のストレスが減り「死にたい」という感情も湧いてこなくなる。
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