消し去りたいのに消せない。
人はなにかの拍子に辛く悲しい記憶が、蘇ってしまうことがある。
トラウマになっている記憶は、次に同じことが起きたときに警戒して回避できるよう記憶にすりこまれる。
そのときに同時に記憶するのが「五感」(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)で感じるもの。
辛いことが起きた季節の空気の匂い、気温、似たような風景を感じると、トラウマがとつぜん蘇ることがある。
これは当時の五感で感じた条件が揃ってしまうと、時と場合を選ばず反射として蘇ってしまう。
しかしながら五感は懐かしい感覚も、呼び覚ましてくれる。
子供のころ楽しかった遊園地の騒音。
友達と探検した森林の匂い。
寒い日の朝のヒーターの灯油の匂い、キッチンから立ち上がる湯気。
学校で悲しいことがあったときに、親が作ってくれたおむすびの味。
寂しいときに慰めてくれた音楽などなど。
記憶は人さまざまだけど、優しく暖かな記憶というものも五感で覚えているのだ。
不愉快な記憶が蘇ると、人はふさぐ、不安に襲われる、怒りがでる。
なかなか気分が切り替えられず、しばらくはやることなすこと、ネガティブな思考に囚われるということもあるだろう。
しかたのないことではあっても、そこで思考がイヤな記憶のままで動くことは決していい結果を生まない。
またいったん囚われてしまった思考を、切り替えるということも難しい。
そんなときに身近なものでイヤな記憶を逃すことは、あるていど可能だ。
たとえば私は五感の中でも「匂い」でさまざまな記憶を呼び覚まされることが、頻繁に起こる。
そこで楽しかったときに経験した香りや、懐かしさを感じた匂いにわざと触れるのだ。
おしゃれなことが大好きな叔母の家へ行くと、いつもいい香りがしていた。
今のようにお香やアロマがあった時代ではない。
けれども新しもの好きの叔母の家は、子供心にとてもいい香りがしていたのだ。
家へ上がるとプーンとそこはかとなく、その香りに包まれてホッとしていた。
恐らく海外の洗剤や、石鹸の匂いだったのではないだろうか?
またベイキングが好きな叔母だったので、パンやケーキを焼く匂いと混じっていたのかもしれない。
とにかく当時の自分の身の回りにはない、好きな香りだった。
大人になり10年以上前に泊まったホテルのアメニティーが、ロキシタンのシャンプーだった。
友人のお祝いで泊まったホテルだったので雰囲気もとても楽くて、大好きなシャンパンをたくさん飲んだ楽しい記憶だ。
遊び疲れて部屋へ戻りシャンプーをすると、バスルームが瞬く間に叔母の家の香りに包まれた。
厳密に言えば完璧に同じ香りではないのだけど、同じトーンの香りだったのだろう。
一気に気持ちが、楽しかった叔母の家で過ごした記憶へとワープした。
楽しい1日の締めくくりが、さらに懐かしく昔の楽しい記憶で満たされて、なんともいえない幸福感に包まれた。
そうして今でもこのシャンプーを使うと、心に多少の余裕ができる。
イヤな記憶がなにかの拍子で蘇ったときでも、家に帰って泡で頭をブクブクにすると気持ちが落ち着く。
急に涙がこぼれ落ちることもあるけど、泣きたいだけ泣いてスッキリする。
ほんの少しの「ホッ」がきっかけで、切り替えがうまくいくことが多い。
そうして次の行動への悪い影響が、少なくなる。この差は大きい。
そのまま放置しておくとネガティブな感情に引きずられて、思わぬミスや怪我や病気につながりかねない。
旅行や出張先にも携帯していくし、これだけは買い置きを欠かさない。
聴覚でよき記憶が呼び覚まされる人は、いつも聞けるようスマフォやiPodへ入れておけばいい。
味覚で楽しい懐かしい記憶が呼び覚まされる人は、好きな食べ物を使えばいい。
トラウマや辛い記憶が湧き上がるのは、危機管理能力が働いているゆえの正常なことで、いいことだととらえる。
だけれども不安や怒りの感情に囚われ続けることは、よくないことだと思考を分けて考える。
そうして「囚われ続けないための」五感に訴えることができる身近なものを探しておく。
一瞬でも囚われた負の感情から抜け出すことが、その後の自分を楽にするステップなのだと体感していただきたい。
投稿がお気に召しましたら、ポチッとクリックをお願いします!
↓いつも応援ありがとうございます。